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東京高等裁判所 平成8年(行ケ)299号 判決 1998年9月10日

岐阜県岐阜市前一色一丁目1番6号

原告

藤沢光男

訴訟代理人弁理士

廣江武典

西尾章

岐阜県岐阜市木造町13番地の1

被告

野田孟

訴訟代理人弁理士

後藤憲秋

同弁護士

木村静之

同弁理士

吉田吏規夫

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  原告が求める裁判

「特許庁が平成7年審判第16850号事件について平成8年9月30日にした審決を取り消す。」との判決

第2  原告の主張

1  特許庁における手続の経緯

原告は、発明の名称を「布素材の製造方法」とする特許第1794581号の特許発明(以下「本件発明」という。)の特許権者である。なお、本件発明の特許出願は、昭和60年3月14日出願の昭和60年特許願第51405号の一部を、昭和63年6月20日に新たな特許出願としたものであって、平成5年10月14日に特許権設定の登録がされたものである。

被告は、平成7年8月2日に本件発明の特許を無効にすることについて審判を請求し、平成7年審判第16850号事件として審理された結果、平成8年9月30日、「特許第1794581号発明の特許を無効とする。」との審決があり、原告は同年10月21日にその謄本の送達を受けた。

2  本件発明の特許請求の範囲(別紙図面参照)

熱溶融性繊維よりなる織布或は不織布の被加工材を布製品に必要な形状及び大きさに超音波加工する布素材の製造方法であって、

周面に無端状の曲線突条を有する加工ロールにより前記被加工材を裁断するよう超音波溶融して裁断切口を形成すると同時に、前記加工ロールの曲線突条の一側又は両側に設けられた点状突起群及び模様状突起群により被加工材を貫通するよう超音波溶融して模様状切口を形成することを特徴とする布素材の製造方法

3  審決の理由

別紙審決書「理由」写しのとおり(なお、審決における「甲第3号証のリーフレット」は本訴の甲第3号証の4(以下「引用例」という。)、審決における「甲第5、6号証の新聞」は本訴の甲第3号証の6、7である。また、審決における甲第10ないし第12号証(枝番を含む。)は、本訴の甲第3号証の17ないし24の各1、26、27の1である。更に、審決における検甲第1ないし第10号証は、その写真が本訴の甲第3号証の16(A)、第3号証の17の2ないし4(BないしD)、第3号証の18の2(E)、第3号証の20の2(F)、第3号証の21の2(G)、第3号証の22の2(H)、第3号証の24の2(I)、第3号証の27の2(J)として提出されている。)。

4  審決の取消事由

審決は、被告提出に係る証拠の証拠価値の判断を誤った結果、本件発明の新規性を否定したものであって、違法であるから、取り消されるべきである。

すなわち、審決は、引用例記載のウェルダーが採用している方法(以下「引用例の方法」という。)は「熱溶融性繊維よりなる織布或は不織布の被加工材を布製品に必要な形状及び大きさに超音波加工する布素材の製造方法であって、周面に無端状の曲線突条を有する加工ロールにより前記被加工材を裁断するよう超音波溶融して裁断切口を形成すると同時に、前記加工ロールの曲線突条の一側に設けられた点状突起群及び模様状突起群により被加工材を貫通するよう超音波溶融して模様状切口を形成する布素材の製造方法」である旨認定したうえ、本件発明は引用例の方法と同一である旨判断している。

しかしながら、引用例の方法は超音波によって被加工材の裁断のみを行うものであって、本件発明のように裁断と同時に模様を形成するものではないし、審決の理由Ⅳ(b)、(c)、(f)記載の構成のものでもない。審決が上記認定の論拠としている証人吉山陽治、同水野浩二は本件係争の利害関係人であって、それらの証言には信憑性がないから、審決の上記認定は誤りである。なお、審決が援用する瑞穂彫金所作成の納品書等は加工ロールの模様が不明確であるし、検甲号各証は製造日が不明であるから、いずれも審決の上記認定を裏付けるものではない。

第3  被告の主張

原告の主張1ないし3は認めるが、4(審決の取消事由)は争う。審決の認定判断は正当であって、これを取り消すべき理由はない。

すなわち、審決は引用例の方法、特に「デザインローラー」の構成を、瑞穂彫金所発行の納品書等、証人証人吉山陽治、同水野浩二の各証言及び検甲各号証によって適法に認定しており、審決には何らの違法もない。

理由

第1  原告の主張1(特許庁における手続の経緯)、2(本件発明の特許請求の範囲)及び3(審決の理由)は、被告も認めるところである。

第2  甲第2号証(出願公開公報)によれば、本件発明の概要は次のとおりである(別紙図面参照)。

1  技術的課題(目的)

本件発明は、熱熔融性繊維よりなる織布あるいは不織布を、衣料等に必要な形状及び大きさに超音波加工して、布素材を得る方法に関するものである(1欄14行ないし17行)。

熱熔融性繊維よりなる布を超音波によって裁断する技術は種々知られているが(2欄18行ないし24行)、これらの技術によって得られる布素材は、裁断切口が直線あるいはジグザグ形状に限られ、装飾性に乏しい欠点がある(3欄5行ないし8行)。

本件発明の目的は、従来技術の上記のような欠点を解消する加工方法を創案することである(3欄21行、22行)。

2  構成

上記の目的を達成するため、本件発明は、その特許請求の範囲記載の構成を採用したものである(1欄2行ないし11行)。

3  作用効果

本件発明によれば、

a  裁断切口の近傍に模様が形成されるので、装飾性質が豊かになる、

b  裁断切口及び模様切口に、被加工材が熔融してできるほつれ止めが形成されるので、ほつれにくい、

c  裁断と同時に模様を形成するので、確実かつ能率が良いとの作用効果を得ることができる(5欄24行ないし6欄8行)。

第3  そこで、原告主張の審決取消事由の当否について検討する。

原告は、引用例の方法に関する審決の認定は誤りである旨主張する。

しかしながら、審決が援用する証拠、特に、

1  引用例裏面の「デザインローラー」の記載

2  甲第3号証の16、17の2ないし4、18の2、20ないし24の各2、27の2(加工ロールの写真)

3  甲第3号証の17ないし24の各1、26、27の1(瑞穂彫金所発行の納品書、請求書)

4  甲第6号証(特許庁における証人吉山陽治、同水野浩二の証人調書)

5  甲第8号証の2(岐阜地方裁判所における証人水野浩二の証人調書)

を総合すれば、引用例の方法に関する審決の認定は正当と認められる。原告は、これらの証拠の証拠価値を否定する主張をするが、証拠価値を否定すべき事情も認められず、採用することができない。

そして、引用例の方法が本件発明の特許出願前に日本国内において公然と実施きれていたことは、前掲証拠によって優に認定することができるから、本件発明の新規性を否定した審決の認定判断に原告主張のような誤りはない。

第4  よって、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は、失当であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日 平成10年8月27日)

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 春日民雄 裁判官 宍戸充)

別紙図面

<省略>

符号の説明、1……加工ロール、2……曲線突条、3……点状突起、4……模様状突起、5……模様状裁断刃先、10……被加工材、11……布素材、12……裁断切口、13……模様状切口、100……超音波発信器、200……加工装置200、B……裁断線。

理由

[Ⅰ](経緯・本件発明の要旨)

本件特許第1794581号発明(以下、「本件発明」という。)は、昭和60年3月14日に出願した特願昭60-51405号の一部を、昭和63年6月10日に新たな特許出願としたものであり、出願公告(特公平4-78746号公報参照)後の平成5年10月14日に設定登録されたものであって、本件発明の要旨は明細書および図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。

「1熱溶融性繊維よりなる織布或は不織布の被加工材を布製品に必要な形状及び大きさに超音波加工する布素材の製造方法であって、

周面に無端状の曲線突条を有する加工ロールにより前記被加工材を裁断するよう超音波溶融して裁断切口を形成すると同時に、前記加工ロールの曲線突条の一側又は両側に設けられた点状突起群及び模様状突起群により被加工材を貫通するよう超音波溶融して模様状切口を形成することを特徴とする布素材の製造方法。」

[Ⅱ](請求人の主張)

請求人は、「特許第1794581号発明は、これを無効とする。審判の費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由として、4つの理由をあげ、おおよそ次ぎのように主張している。

(無効理由1):本件発明は、甲第3号証に記載された発明と同一の発明であり特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、無効にされるべきである。

(無効理由2):本件発明は、上記同号証に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定によって、無効にされるべきである。

(無効理由3):本件発明は、甲第10号証乃至甲第28号証で示されるように、この出願前に公然実施された甲第3号証に係わる超音波ミシンと同一の発明であるから、特許法第29条第1項第2号の規定に該当し、無効にされるべきである。

(無効理由4)本件発明は、甲第10号証乃至甲第28号証で示されるように、この出願前に公然実施された甲第3号証に係わる超音波ミシンに基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定によって、無効にされるべきである。

そして、請求人はこれらの主張を立証すべく、証拠方法として以下の甲第1~28号証および検証物である甲検第1~10号証を提出するとともに、証人尋問(証人:吉山陽治.水野浩二)を申請している。

甲第1号証 特許第1794581号原簿謄本(本件特許)

甲第2号証 特公平4-78746号公報(本件公告公報)

甲第3号証 リーフレット「SEIKOウェルダーシリーズ」「超音波ロータリーウェルダー連続熔着・熔断機ミシンタイプ」(セイコーミシン株式会社)

甲第4号証 リーフレット「SEIKO ULTRASONIC WELDER Series」(英語版)(セイコーミシン株式会社)

甲第5号証 「全日本重布新聞 昭和57年4月15日号」(セイコーミシン(株)の新製品紹介記事)(全日本重布新聞)の写し

甲第6号証 「全日本重布新聞 昭和57年4月30日号」(セイコーミシン(株)の広告)(全日本重布新聞)の写し

甲第7号証 甲第3号証のリーフレットを頒布したこと、および、その構成に関するセイコーミシン株式会社の証明書

甲第8号証 甲第4号証のリーフレットを頒布したこと、および、その構成に関するセイコーミシン株式会社の証明書

甲第9号証 証人:吉山陽治がセイコーミシン株式会社に在籍していたことを証明する在籍証明書

甲第10号証の1 納品書表紙の写し(「ミシンローラー」瑞穂彫金所)

甲第10号証の2~甲第10号証の14

同上納品書の写し(納品宛て名:青木服飾、二葉、安藤ミシン商会、トコロジューキミシン、横山工業ミシン、安藤ミシン、トコロジューキ販売KK、サンワ特殊加工/納品日付け:58年12月19日より59年2月25日)

甲第11号証の1 納品書表紙の写し

甲第11号証の2~甲第11号証の16

同上納品書の写し(納品宛て名:サンワ特殊加工、安藤ミシン商会、トコロジューキ販売KK、青木服飾、横山工業ミシンKK、桐生ミシン商会、三谷ミシン/納品日付け:59年3月2日より59年3月31日)

甲第12号証の1 納品書表紙の写し

甲第12号証の2~甲第12号証の6

同上納品書の写し(納品宛て名:トコロジューキ販売KK、北川服装(株)、サンワ特殊加工、青木服飾/納品日付け:59年4月13日より59年5月31日)

甲第13号証 青木實の陳述書

甲第14号証の1~5

株式会社三幸商会が青木實宛に出したセイコーミシン製超音波溶着機の見積書、同納品書、同請求書と、同振込金受取書、領収書

甲第15号証 ローラーの写真「A」

甲第16号証の1 納品書No3(58年12月19日 瑞穂彫金所)

甲第16号証の2~4 ローラーの写真「B」、「C」、「D」

甲第17号証の1 納品書No6(58年12月28日 同所)

甲第17号証の2 ローラーの写真「E」

甲第18号証の1 請求書(58年12月28日 同所)

甲第18号証の2 振込金受取書((株)岐阜相互銀行)

甲第19号証の1 納品書No38(59年2月25日 同所)

甲第19号証の2 ローラーの写真「F」

甲第20号証の1 納品書No15(59年3月11日 同所)

甲第20号証の2 ローラーの写真「G」

甲第21号証の1 納品書No26(59年3月18日 同所)

甲第21号証の2 ローラーの写真「H」

甲第22号証の1 請求書(58年3月20日 同所)

甲第22号証の2 振込金受取書((株)十六銀行)

甲第23号証の1 納品書No71(59年5月11日 同所)

甲第23号証の2 ローラーの写真「I」

甲第24号証 振込金受取書((株)岐阜相互銀行)

甲第25号証 納品書No78(59年5月31日 同所)

甲第26号証の1 納品書No81(59年6月24日 同所)

甲第26号証の2 ローラーの写真「J」

甲第27号証 振込金受取書((株)岐阜相互銀行)

甲第28号証 岐阜県繊維試験場長が青木服飾宛に出した試験報告書

検甲第1号証~検甲第10号証

甲第15号証、甲第16号証の2、甲第17号証の2、甲第19号証の2、甲第20号証の2、甲第21号証の2、甲第23号証の2、甲第26号証の2の各ローラーの写真「A」、「B」、「C」、「D」、「E」、「F」、「G」、「H」、「I」、「J」に対応するとされるローラの現物

[Ⅲ](被請求人の主張)

一方、被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、おおよそ次のように答弁している。

甲第3号証のリーフレットは、本件特許発明が記載されておらず、その示唆もなく、甲第10号ないし甲第28号証に記載された技術は本件発明とは別異のものであって、本件特許発明が公然実施されていたとする主張に根拠はなく、(無効理由1~4)では特許法第29条第1項第2号・第3号および同条第2項の規定によっては、本件特許発明は無効とはならない。

そして、被請求人は、請求人が証拠方法として提出した甲第13号証~甲第28号証を撤回する旨主張するとともに、証拠方法として以下の乙第1~10号証を提出している。

乙第1号証 請求人が証拠方法として提出した甲第13号証から甲第28号証を、撤回するとした青木實の証拠撤回書

乙第2号証 意匠権侵害に関する事件(岐阜地方裁判所:昭和63年(ワ)第379号)において、作成された証人:水野浩二の証人証書の写し

乙第3号証 同上、乙第16号として提出された、本件甲第10号証の2の写し

乙第4号証 同上、乙第41号証の3として提出された、本件甲第10号証の10の納品書の写し

乙第5号証 甲第30号証に係わる意匠登録無効審判事件において、セイコーミシン株式会社が甲第11号証として提出した、「溶着ロール」の設計図面および証明書の写し

乙第6号証 同上、セイコーミシン株式会社が、甲第12号証として提出した「溶着ロール」の設計図面および証明書の写し

乙第7号証 ブラザー工業株式会社の超音波溶着機のリーフレットの写し

乙第8号証 ブラザー工業株式会社の超音波溶着機の使用説明書の写し

乙第9号証 青木實の「加工ロール」についての陳述書

[Ⅳ](甲第3証に係わる発明の確定)

そこで、請求人の無効理由1~4の主張の基礎となる甲第3号証に係わる発明がどのようなものであって、公知日がいつであったか検討する。

それに先だって、被請求人は第1答弁書において、請求人が証拠方法として提出した甲第13号証~甲第28号証を撤回する旨主張しているので、この点を検討するが、当審での口頭審理において、甲第10号証および甲第13号証から甲第28号証の証拠の原本が存在し、その内容を確認したので、単に被請求人の撤回書の提出をもって、甲第13号証~甲第28号証が撤回されたとは認められない。

そこで、甲第3号証のリーフレットに示された超音波ロータリーウェルダーに関して、当審において、平成8年3月26日に証人:吉山陽治.水野浩二による証人尋問を行ったので、尋問によって明らかになった事項を検討する。

上記の証人尋問の結果、明らかになった事項は次の通りである。

(甲第3号証のリーフレットに示された

超音波ロータリーウェルダーの具体的構成)

甲第3号証のリーフレットに示された超音波ロータリーウェルダーに係わる具体的構成は、下記の構成を有することが、甲第3号証のリーフレットの記

載内容、甲第5号証・甲第6号証の新聞の記載内容・写真、および、証人:吉山陽治の超音波ロータリーウェルダーの構成に関する証言(吉山調書符号41~102)によって明らかとなった。

(a)ミシンタイプの超音波ロータリーウェルダーであって、ミシンのヘッド部に回転するデザインローラーを取り付け、ペダルを踏んで自動的に回転させ、超音波で連続溶着・溶断させるものであること。(主に、同符号42~60)

(b)デザインローラーは、波形切断と点模様と丸抜き模様・コアラ模様等の模様付けとを同時に行う回転ローラーであること。(主に、同符号64、71、72、76、86)

(c)丸抜き模様・コアラ模様等の模様付けは、切り抜いて、貫通すること。(主に、同符号72~81)

(d)加工対象は、薄物系統の生地、婦人服のアクセサリー、飾り、襟、帽子の汗取り、靴下のフリルで、材質はナイロン、テトロン、ポリエステルであること。(主に、同符号93、95、99、100)

(甲第3号証の超音波ロータリーウェルダーに

装着するデザインローラーの具体的構成)

甲第3号証のリーフレットに示された超音波ロータリーウェルダーに使用するデザインローラーに関する具体由構成は、下記の構成を有することが、証人:吉山陽治二の証言、甲第10号証~甲第12号証、検甲第1号証~検甲第10号証に関する証人:水野浩二の証言、および、上記証人尋問での各検甲号証の検証によって明らかとなった。

(f)デザインローラーは、周面の無端状の曲線突条を有する加工ロールであって、曲線突条の一側に設けられた点状突起群及び検様状突起群が設けられたロールであること。(主に、水野調書符号95)

なお、上記の検甲第1号証~検甲第10号証の各デザインローラーは、甲第10号証、甲第11号証、甲第12号証における瑞穂彫金所が発行した各納品書No3(ローラーの写真「B」、「C」、「D」)、納品書No6(同、「E」)、納品書No38(同、「F」)、納品書No15(同、「G」)、納品書No26(同、写真「H」)、納品書No71(同、「I」)、納品書No78、No81(同、「J」)に係わる各デザインローラーの転写軌跡とほぼ一致し、この納品書に係わるデザインローラーは検甲第1号証~検甲第10号証のデザインローラーとほぼ同等品であることが確かめられた。

以上の(a)~(f)項の記載の構成をまとめると、上記の「加工対象」は材質が上記(d)項に記載のようにナイロン、テトロン、ポリエステルであるから、実質的に「熱溶融性繊維よりなる織布或は不織布の被加工材」であり、また、上記の「デザインローラ」は甲第10、11、12号証に関する証人:水野浩二の証言を合わせれば、上記(b)(c)(f)項に記載のように「周面の無端状の曲線突条を有する加工ロールであって、被加工材を裁断するよう超音波溶融して裁断切口を形成すると同時に、前記加工ロールの曲線突条の一側に設けられた点状突起群及び模様状突起群により被加工材を貫通するようにしたロール」であり、これら、(b)(c)(f)項記載の構成を具備した装置を(a)項記載の使用方法で被加工材を加工して布素材を製造する製造方法である。

(甲第3号証に係わる発明)

結局、甲第3号証に示される超音波ロータリーウェルダーに係わる具体的構成は、実質的に

「熱溶融性繊維よりなる織布或は不織布の被加工材を布製品に必要な形状及び大きさに超音波加工する布素材の製造方法であって、

周面の無端状の曲線突条を有する加工ロールにより前記被加工材を裁断するよう超音波溶融して裁断切口を形成すると同時に、前記加工ロールの曲線突条の一側に設けられた点状突起群及び模様状突起群により被加工材を貫通するよう超音波溶融して模様状切口を形成する布素材の製造方法」

であると認める。

なお、点状突起群及び模様状突起群により被加工材を貫通する為の、甲第10号証の2に係わるローラーに関して、被請求人は、水野浩二の証言の、特に、「3行目は波形にカットし、真ん中の丸い小さい穴をカットして、抜く状態になるんです。~~」(水野調書符号43~44)等の証言、および、吉山陽治の証言の、特に、甲第3号証のリーフレットの裏面のデザインローラーに関しての「丸く抜いたものです。」「はい、貫通されています。」(吉山調書符号72~75)等の証言は、信用できない旨答弁している。

即ち、乙第2号証の岐阜地方裁判所での証人調書からすれば、甲第10号証の2および甲第10号証の10の実施品(ローラー)では、模様を付するだけで、穴をカットするものではなく、両調書の証言内容は異なるから虚偽の証言で信用できない旨答弁している。

しかし、乙第2号証の証人調べは本件審判事件とは別の意匠に関する事件であり、また、被請求人は「模様」として切り抜いた部分は含まない旨の主張をしているが、乙第2号証の証人調べにおいて、切り抜いた部分が模様とは異なるとする積極的な証言は見あたらず、通常、切り抜いた部分も「模様」の概念に含まれるものと解されるから、この点で両調書の証言に矛盾するところはない。

付言すれば、デザインローラーの一つである甲第10号証の4に転写軌跡として示された「ローラーE」(検甲第5号証に)は、加工素材の材質・厚さにも影響されるが、通常、穴が開かず薄膜のままであるが、甲第10号証の3、6、7、8、9、10の転写軌跡として示されたローラー(検甲第4号証等)は、点状突起群をみれば、その縁は鋭く、高さも切断縁と同じであるから、十分に被加工材を貫通するように超音波溶融して模様状切口を形成し、穴模様が得られることは、水野浩二の証言およびローラーの現物の検証から認めることが出来る。

(甲第3号証に係わる発明の公知性)

上記の甲第3号証に係わる超音波ロータリーウェルダーの具体的装置およびその使用方法は、甲第5号証・甲第6号証と基本的に同じものであって、甲第5号証のセイコーミシン(株)の新製品紹介記事が掲載された「全日本重布新聞」が昭和57年4月15日に頒布されたこと、甲第6号証のセイコーミシン(株)の広告が掲載された「全日本重布新聞」は昭和57年4月30日号」に頒布されたこと(吉山調書符号7~22)は証言より明らかである。このことは、甲第3号証に示されるミシンタイプの超音波ロータリーウェルダーの品番がSU-350-SMであって、甲第3、4、5、6号証の超音波ウェルダーと共通していることからも裏付けられる。

また、甲第3号証(甲第4号証も同じ)のリーフレットは、甲第3号証に係わる超音波ロータリーウェルダーの販売用に1984年(昭和59年)10月(第1刷)に印刷されたカタログであること(同符号25~31)、同カタログの印刷が出来上がった時点で全国の約100店舗の特約店に10~20部程度送ったこと、東京のセイコーミシン(株)の展示場ではミシン(超音波ロータリーウェルダー)の横に置いたこと、ミシンの実演をしたこと(同符号103~124)、大阪・名古屋の工業ミシン業界のミシン展示会にも上記リーフレットを配布したこと(同符号125~126)が証言より明らかである。このことは、リーフレットの裏面の右下の数字「84101.」からも裏付けられる。

そして、以上の各甲号証および証言から得られた事実を勘案すると、甲第3号証に係わる超音波ロータリーウェルダー自体は、「昭和57年4月頃から、発売されていた」との証言、および、装着したデザインローラは、((b)項)波形切断と、点模様と丸抜き模様・コアラ模様の模様付けとを同時に行う回転ローラーで、((c)項)丸抜き模様・コアラ模様の模様付けは、丸く抜いて貫通するものであって、このデザインローラを装着した甲第3号証に係わる超音波ロータリーウェルダーは、「昭和59年の翌年(昭和60年)の1月の大阪、2月の名古屋のミシン展示会に展示されていた」との吉山陽治の証言は十分に信憑性がある。

上記の展示の事実は、展示会ではミシン(甲第3号証に係わる超音波ロータリーウェルダー)の実演をしていたこと、これを見て注文してくるケースが多かったこと(水野調書符号121~123)との水野浩二の証言、および、この種のデザインローラーが昭和59年6月以前に多数製作されていた事実が甲第10~12号証から明らかであることから、上記の展示会が昭和59年頃であるものの正確な月日が必ずしも明確ではないが、少なくとも昭和60年3月以前であることが類推できることからも裏付けられる。

さらに、上記の展示されていた超音波ロータリーウェルダーにどのようなデザインローラーが装着されていたかに関しても、その詳細な形状・構造は、甲第3号証に係わる超音波ロータリーウェルダーにはデザインローラーとして前述の(b)(c)項記載の構成のものが使用されていたこと、この種のデザインローラーが甲第10~12号証から昭和59年6月以前に多数製作されていた事実、および、ローラーの製作は水野浩二であるとの吉山陽治の証言からすれば、デザインローラは、検甲第1号証~検甲第10号証のデザインローラーとほぼ同等品、即ちローラーの曲線突状の一側に点状突起群及び模様状突起群が設けられたものであることも明らかである。

したがって、上述したデザインローラーを装着した甲第3号証に係わる超音波ロータリーウェルダーが、この出願の昭和60年3月14日以前に公然と実施されていたことは明らかである。

ところで、水野浩二が製作したローラーについて、被請求人は乙第9号証を提出してその公知性を問題にしており、水野浩二の証言でも昭和62、3年過ぎには秘密にすることを意識したとし、昭和60年以前の公知性は定かではない。しかし、水野浩二が製作したデザインローラーを装着した甲第3号証に係わる超音波ロータリーウェルダーが、昭和60年1月、2月の展示会において、公然と実施されていたのであるから、水野浩二の瑞穂彫金所において公知であったか否かは問題ではない。

また、被請求人は、第2答弁書において、証人:吉山陽治.水野浩二が共に本件と利害関係にあり、証言には信憑性がない旨主張するが、裏付ける証拠も存在するのであるから、利害関係だけの故をもって、信憑性がないとすることはできない。

そして、他に、被請求人の提出した各乙号証を検討しても、上記の事実を否定する証拠は見当たらない。

[Ⅴ](比較判断)

以上のとおり、甲第3号証に係わる発明は本件発明の出願前に公然実施されたものと認められるから、請求人の主張する(無効理由3)から検討する。

そこで、本件発明(以下、「前者」という。)と前記の(甲第3号証に係わる発明)の項で確定した甲第3号証に係わる発明(以下、「後者」という。)とを比較すると、

加工ロールの点状突起群及び模様状突起群が、前者においては、加工ロールの曲線突状の一側又は両側に設けらたのに対して、後者においては、加工ロールの曲線突状の一側だけである点で表現上一応相違する。

しかし、前者においても、点状突起群及び模様状突起群が、加工ロールの曲線突状の一側に設けることも含むのであるから、後者は前者とは異なるところがなく、両者は同一の発明と認められる。

[Ⅵ](結び)

それゆえ、本件発明は、(無効理由3)により、特許法第29条第1項第2号の規定に該当し、他の無効理由を検討するまでもなく、本件特許は同法第123条第1項の規定に該当するので無効とすべきである。

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